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ペンダント照明5選(3) 見た人が笑顔になる照明、光の詩人 INGO MAURER
ポール・ヘニングセンは幼い頃のガス灯の光をもとに、科学的なアプローチでシェードの素材や形を変化させ、近代照明を作り上げました。
息子のサイモン・ヘニングセンは、建築デザインの一部として叙情的で映画のワンシーンのような照明をデザインしました。
ペンダント照明5選の3番目は、照明器具にストーリーを与えアートとしてデザインした「光の詩人」と呼ばれた「インゴマウラー」です。
日本では、南青山にショールームを構える「Studio NOI」さんが輸入元です。ショールームは土日祝日はお休みなので、興味のある方は平日に。
目次(クリックで開閉)
インゴマウラーの来歴
1932年にドイツで漁師の息子として生まれます。5人兄弟だそうです。
ドイツ国内でグラフィックデザインを学んだのち、1960年にアメリカに渡りニューヨークやサンフランシスコでフリーランスのグラフィックデザイナーとして働きます。
1963年にドイツに戻り、自身のデザインした照明を製造する会社としてデザインMを立ち上げます。現在のインゴマウラー社の前身です。
1969年に”the Bulb”を発表。ニューヨーク近代博物館に収蔵され、照明デザイナーとしての華々しいキャリアをスタートします。
1980年代〜2000年代にかけて、世界中で展覧会を開催し各国のデザイン賞を受賞していますが、日本でも2004年に織部賞(岐阜県産業振興協会)を受賞しています。
最近の話ですが、2019年に87歳で亡くなりました。ミュンヘンの美術館での個展「Design or What ?」の開催目前だったそうです。
インゴマウラーのデザインの特徴

初めてインゴマウラーの照明を目にしたのは、2018年9月初めてダンスクムーベルギャラリーを訪れた時です。
家具を探して都内の北欧家具店を回っていた頃、ケアホルムの家具に力を入れていると聞いて訪問しました。
たまたまインゴマウラー展を開催している最中で、青いゴム手袋の照明(LUZY)や羽根の生えた電球(BIRD)が展示されており、その日は驚いて退店したのを覚えています。
新築に向けたコンセプト作りをしていた頃で、このデザインを受け入れられるだけの余裕はなかったと思います。この日のことは今でも店員さんとの笑い話です。

デザインはとにかく奇抜で特徴的、一度見たら必ずそれと分かるぐらいの存在感があります。
建築が終わった頃からインゴマウラーの世界観にジワジワと心を持っていかれ、気がつけば大好きな照明デザイナーです。
インゴマウラーの照明にはそれぞれストーリーがあり、照明の名前や説明を聴きながら眺めていると、思わず笑みが溢れる瞬間があります。
パッと見て好き嫌いはあると思いますが、しばらく見ていると思わず笑顔になってしまう不思議な照明です。
“暗い顔をした人が笑顔になれば良い” “人々の喜びの表情こそが、私を幸せにする”
インゴマウラーが語った言葉だそうです。
インゴマウラーとイサム・ノグチ

インゴマウラーには和紙を使った「Mamo Nouchies」というラインナップがあります。
日系アメリカ人の彫刻家・デザイナー イサム・ノグチの Akari シリーズ へのオマージュとして、インゴマウラーがデザインしたものです。
調べてみると面白い共通点を見つけました。
イサム・ノグチが Akari をデザインしたのは、当時の岐阜市長から岐阜提灯をモチーフにした照明デザインを依頼された事がきっかけです。
その後、香川県高松市(旧牟礼町)に日本での活動拠点となるアトリエを構え、そこでAkariシリーズを発表します。
Mamo Nouchies は香川県の和紙を使用しており、また、インゴマウラー自身は岐阜県の綾部賞を受賞しています。
両者の来歴を見ていると香川県と岐阜県が色々な場面で出てきます。両県とも伝統工芸品が多く残る県ですが、両者がここで繋がることに驚きを感じます。
和紙はインゴマウラーの他の作品で使用されます。Mamo Nouchies以外だと、Zettel’z でも和紙をシェードとして使用しています。
参考
※香川県には讃岐提灯や丸亀うちわといった紙にまつわる伝統工芸があります。
丸亀うちわについて調べたところ、「伊予竹に土佐紙貼りてあわ(阿波)ぐれば讃岐うちわで至極(四国)涼しい」といった歌が見つかりました。
四国中央市の伊予三島には今でも製紙工場がありますが、阿波和紙・土佐和紙など四国は紙の一大産地だったそうです。
仕事で四国へは何度もいきましたが、照明と伝統工芸という視点で見たことはありません。
今までは「うどん」と「かつお」の事で頭がいっぱいでしたが、次に訪問する際は2人を繋ぐ何かを感じられればと思います。
NHK 連続ドラマ「ハルカの光」
黒島結菜さん主演のNHKの連続ドラマ「ハルカの光」では、インゴマウラーの「One From The Heart」が第2話で紹介されていました。

赤いハートから出る赤と青のワイヤーが、ハート型の鏡を支えています。
それぞれ動脈と静脈を表しているそうです。
照明をつけると赤いハートの上から出た光が鏡のハートに反射して、壁にもう一つのハートを映し出します。
第3話ではイサム・ノグチの「Akari」が紹介されています。
第4話では Beltrand Balas 「Here Comes The Sun」、最終話では Poul Henningsen が紹介されます。
家具・照明好きとしては、もっと照明の背景に深く切り込んで欲しかったと思いますが、知っている照明がたくさん出てきて楽しめました。
One From the Heart は、インゴマウラーの中でもストーリー性の強いかなりポエティックな照明です。
ドラマには仕立てやすいと思いますが、もしキャンベル缶やカンパリ瓶、手袋だとどんなストーリーに仕立てたのか、興味が湧きます。
イサム・ノグチや Alvar Aalto はわかりますが、まさかインゴマウラーが出てきた事には驚きました。
これから照明の購入を考える方は一度見てみると面白いと思います。
我が家に迎えたい照明
残念ながらインゴマウラーの照明はまだありません。
インゴマウラーブランドで別デザイナーのものも含みますが、欲しいと思うペンダントライトはいくつかあります。
仕事部屋のペンダントとして欲しいですが、自分の一存では買えません。見積もりをもらって家庭内交渉です。
24 Karat Blau

金沢の金箔をアクリル板で挟んだシェードがとてもラグジュアリーです。デザイナーは Axel Schmidtで、インゴマウラーブランドで製品化されています。
24 Karat Blau の特徴
金箔のラグジュアリーさが特徴ですが、もうひとつデザイン上の面白い特徴もあります。
先ほど紹介した One From the Heart では、赤と青のワイヤーを使い動脈と静脈をデザインしています。
この照明では赤のワイヤーはありますが、青のワイヤーはありません。しかし、この照明の名前には Blau(英語 Blue)とあります。
この照明は、青色をワイヤーではなく、金の特徴を生かして表現しています。
金という金属は赤や黄、緑の波長を反射する一方で、その補色にあたる青は反射しません。
このため、金を極限まで薄く伸ばした金箔に内側から光が当てると、青の光を透過してほんのり青く輝きます。
Axel Schmidtは、赤のワイヤーと金箔を透過した青い光で、インゴマウラーの世界を再現したのかもしれません。
仕事部屋の照明として欲しい
サイズの大きな1000 Karat Blauもありますが、50万円超と価格が高く手が出ません。
この 24 Karat Blau ならば手が届きます。
先日、見積もりをお願いしました。ダイニングにはビンテージのPH2があるので、仕事部屋の照明として使いたいと考えています。
近く、FinnJuhlのリーディングチェアが届くので、照明はインゴマウラー、家具は FinnJuhl で固めたいと思います。
しかし、一存では決められません。
仕事が捗るかは別の話ですが、働くモチベーションは湧いてくると思います。
連結して使うとラグジュアリー感UP
縦横20cmぐらいの小さめのランプですが、連結セットを使う事で複数の24 Karatを横方向に連結する事ができます。
例えば、ダイニング照明です。連結セットを2台使用して3灯にすれば、とてもゴージャスなダイニング照明になります。
1000 Karat Blau だと縦にも連結できるので、照明というより大きなオブジェのように室内に飾る事ができます。
Zettel’z A5/A6

電球の上部からでるステンレスのワイヤーフレームに、和紙をクリップで止めてシェードにする照明です。
80枚の和紙付属し、40枚が文字入り、40枚は無地です。無地の40枚は自分で何かを書いて吊るすようです。
この照明を購入した人が、ワイヤーに和紙を吊り下げる事で完成します。購入者と一緒に完成させるというインゴマウラーのコンセプトだそうです。
ワイヤーの先端には赤いチューブが取り付けられており、インゴマウラーのアイデンティティを感じます。
50枚の和紙を吊るした状態が、デザイン状最も綺麗とされています。
1カ月1枚のペースで自分仕様に変えていけば、4年後には全て自分仕様になります。家族の記念日ごとに和紙を変えるといった事も面白いと思います。
まとめ

今回までで3人の照明デザイナーをご紹介しました。
科学的に機能を求めてデザインした Poul Henningsen、照明を建築の一部としてデザインした Simon Henningsen、照明をアートとして捉え見た人を笑顔にしたいと考えた Ingo Maurer。
当たり前のように電気が使える現代ですが、電気の普及とともに、照明器具の役割が少しずつ変化しているのを見て取れます。
照明に対するアプローチはそれぞれ異なりますが、それを使う人、見る人の事を考えて「灯との付き合い方」を追求する姿勢は同じなのかもしれません。
次回、第4回は、2013年にDCW editionsにより復刻された フランスの建築家 Bertrand Balas がデザインした照明です。
この照明の名前は、アルバム「アイビーロード」に含まれるあの歌です。