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北欧照明の代名詞「ルイス・ポールセンPH」の歴史とビンテージPH
ルイスポールセン「PHランプ」といえば、インテリア雑誌だけでなく、テレビドラマでも頻繁に見かける北欧を代表する照明です。大小異なる皿のようなシェードが連なる独特のデザインに、赤や青、緑といったカラフルな色が華を添えます。
この独特のシェードにはデザイナー「ポール・ヘニングセン」の照明に対する思いが詰まっています。今回の記事では、デザイナー「ポール・ヘニングセン」の照明に対する考えに触れながら、PHランプの歴史、我が家にあるPHランプ(PH2)について紹介します。
目次(クリックで開閉)
近代照明の父「ポール・ヘニングセン」
スマホやモニター用のフィルターにアンチグレアという仕様があります。「グレア」とは、「ものを見えづらくしたり、不快感を感じさせるギラツキ感・眩しさのこと」をいいます。ポール・ヘニングセンは、電球照明のグレアと向き合い続けたデザイナーで、近代照明の父と呼ばれます。
幼い頃の心象風景
ポール・ヘニングセンがデンマークで生まれたのは1984年。この頃の照明といえばガス灯で、彼も揺れる炎に柔らかく照らされる空間で少年期まで過ごしたそうです。その後、電気の普及に伴いガス灯は電気照明に変わっていきます。
しかし、当時の電気照明はシェードもなく剥き出しの電球がギラギラと室内を照らします。「昔のガス灯のような柔らかい光を作りたい。」少年期に感じたこの思いが、ポール・ヘニングセンが生涯照明デザインと向き合いつづけた原動力とされます。
かたちづくられた本物の照明
- 「いったん本物の照明を経験したら、生活は新たな価値で満ちあふれる」(ポール・ヘニングセン)
- 「光をかたちづくる(Design to Shape Light)」(ルイス・ポールセン)
PHランプの最大の特徴は、「必要な所は明るいのに、目には眩しくない」ということ。シェードの形や角度、素材を緻密に計算することで、光を届ける方向や距離を自在に操ります。まさに「光をかたちづくる」「本物の照明」です。
PHランプの歴史
PHランプの歴史は、その独特のシェードの形・枚数の変遷そのものです。まとめてみました。
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Slotsholm Lamp(街灯・1920年)
ヘニングセンは1917年に大学を退学、1919年に自身のデザインオフィスを立ち上げます。翌1920年、彼がデザインした街灯「Slotsholm Lamp」がコペンハーゲンの運河沿いに設置されます。「支柱高さの7倍の距離まで光を届けた」とされる電気の街灯です。
図面を見ると電球を中心に光の拡散を緻密に計算している事がわかります。しかし、認識の違いなのか、製造会社により部品が1つ外されたそうで、最終的には「眩しい(グレア)」事を理由に全て撤去されてしまったそうです。
(写真はwikipedia 英語版「poul henningsen」の項目にあります。)
※2018年には、この街灯を Christiansborg Palaceの運河沿いに復刻させようという動きもあったそうです。
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PHランプの原型(Paris Lamp・1925年)
PHランプが初めて世界に知られたのは1925年のパリ万博。デンマークパビリオンに「System PH」として展示された3つの照明の1つ「Paris Lamp」でヘニングセンは金賞を受賞、製造したルイス・ポールセンは銀賞を受賞します。
このParis Lampは6枚のシェードで構成され、トップからボトムに向かって、直径は小さく、曲線は強く、角度は垂直に近づきます。ボトム2枚のシェードはPH5とほぼ同じ形で、この頃にはPH5につながる構造が出来ていた事がうかがえます。
(写真はwikipedia 英語版「poul henningsen」の項目にあります。)
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4:2:1の3シェード(Forum Lamp・1926年)
万博での金賞受賞の翌年、ルイスポールセンと共同でコペンハーゲンに新築される展示場のライティングを受注します。自動車の展示を想定した広い空間で、そのためにデザインされた照明が「Forum Lamp」です。
Forum Lampは3枚のシェードを使い、「横方向2:中間1:真下方向1」に電球の光を分割し放射します。これを実現するため、シェードサイズはトップから4:2:1と順番に小さくなり、角度も垂直に近づきます。これが3枚シェードで光の方向を調整する「3シェードシステム」の始まりです。
※シェード自体は3枚ですが、電球の直下にはグレアを防ぐための部品が設置されます。後にボトムボウルとして、ボトムシェード下部に設置されます。
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3:2:1の3シェード(1926年以降)
Forum Lampでの成功を背景に3シェードを家庭用として発売。展示場より遥かに小さな空間なので横方向への光を抑え下方向に集めます。トップシェードを一回り小さくし、比率を「3:2:1」に変更。さらに、電球の位置を少し下げて下方向により多くの光が届くように調整してます。
この「3:2:1」を基本形とし、食卓での2灯・3灯使い、ローテーブル上の1灯使いなど、使用環境に合わせて拡散方向を変えるため、シェードの比率を調整します。これが、PHランプの呼び名に表れています。
- PH3は直径30cmの3番トップシェードに「3:2:1」の比率でミドル・ボトムシェードを取り付けたもの
- PH3/2は、3番トップシェードに、2番トップシェードのミドル・ボトムシェードを取り付けたもの
- PH3 1/2-3は、3番と4番の間にあたる3 1/2番シェード(=35cm)に、3番シェードのミドル・ボトムシェードを取り付けたもの
最も有名なPH5
その後、1958年にPH5を発表します。テレビ・雑誌でも見かける事が多く一番有名なPHランプだと思います。その特徴は、
- 名前の由来となる直径50cmのトップシェード
- 合計6枚のシェードを使ったグレアフリーデザイン
- シェードの曲線には自然界に存在する対数螺旋を用いている
- 目に優しい光にするため赤と青の小さなシェードを補った
そして、「Paris Lampで使った下2枚とトップシェード上のシェード」「3シェードの構成理論」を組み合わせた全部乗せ仕様です。その意味では、1925年から30年超を経て完成した、PHランプの集大成です。
最高峰はアーティチョーク
他方、PHランプの最高峰といえば、PH5と同じ1958年にデザインされた「アーティチョーク」。72枚の羽を含めて大部分は、いまだに手作業だそうです。値段も最高峰ですが、その佇まいには息を呑みます。照明一つで空間を作り上げられる最高峰の芸術品です。
実際にアーティチョークの周りを回って確認しますが、どの角度からみても電球が見えません。電球の光は必ず羽に反射して意図された方向に拡散します。72枚もある羽根の位置・角度は細かく計算され正確に配置されています。
2020年に復刻されたセプティマというモデルがあり、アーティチョークの元デザインとされます。セプティマはPHらしい形ですが、ガラスシェードを部分的に磨りガラスにして光の拡散・透過を調整しています。この磨りガラスの形がアーティチョークの羽の形によく似ています。
我が家のPHランプ
ここからは我が家のPHランプの紹介です。2灯セットで販売されていたビンテージ品を購入し、ダイニングテーブルの照明として使っています。ハウスメーカーを決定する直前に見つけたもので、LDKの内装、特に配色ではこのPHランプを軸に設計しています。
基本の3シェードランプ
この3シェードランプは、先ほどのタイムチャートでは一番最後、1926年以降に製造された3:2:1の基本の3シェードにあたります。詳しい製造年はわかりませんが、1930年前後のものだそうです。配線類は全て新しいものに取り替えられており、電球もLED電球です。ヘニングセンもこのランプにLED電球がつくとは思わなかったはずです。
特徴的なアンバーガラス
3枚のシェードは全てアンバー色のガラス製。シェードの外側は通常のツルッとしたガラス面ですが、内側は梨地加工がされギラつくグレアを和らげます。シェードが金属だと光を通しませんが、ガラスシェードの場合はランプ全体が柔らかい光を放ちます。暗い中で飴色に輝くこのランプの佇まいは思わず見惚れます。
このアンバーガラスの特徴は所々にある気泡。当時のガラス製造技術、原料事情から不純物が多かったためですが、今となっては再現することの難しいビンテージならではのレトロ感です。
グレアを防ぐボトムボウル
3番目の一番小さなシェードの内側には、ボトムボウルを呼ばれるガラスシェードがついています。このボトムボウルまで揃ったビンテージ品はとても希少。昔の電球はフィラメントの質が悪く頻繁に切れます。電球を交換する際にシェードやボトムボウルを落として割ることも多かったそうです。
電球の交換方法は、2番目のシェードを上方向にずらし、3番シェードを固定しているクリップを広げて、3番シェード・ボトムボウルを外して行います。確かに暗がりで作業するには不安を感じます。LED電球が当たり前の現在、LEDの有り難さを実感します。
時代を感じさせるベークライトのソケット
トップシェードの上にあるソケット部分はフェノール(ベークライト)製です。フェノールは、20年ぐらい前は車のシガーライトソケットなどでも使用されており世界最古の人工合成樹脂とされます。これも時代を感じさせる特徴です。
復刻版のアンバーシェードとの違い
2017年にアンバーガラスシェードのペンダント(2018年にテーブル、2020年にテーブル、2021年にはフロアランプ)のPHランプが、台数限定で復刻されました。サイズは「3 1/2ー3」で「3 1/2のトップシェードに3のミドル・ボトム」がついたもの。(2020年のテーブルは「2/1」)
実物を比べてみると復刻版の方がシェードに赤みが強く、復刻版はオレンジ系、ビンテージ品はイエロー系と色の印象は違います。違いをまとめると以下の通り。
相違点 | 復刻版 | ビンテージ品 |
シェードの色 | オレンジに近いアンバー色 | 黄色に近いアンバー色 |
シェードの質 | エッジ部分の仕上げが綺麗、気泡は無く色も均一 | 気泡が多数、エッジ付近には凹もある。エッジは無骨で、全体に色むらがある。 |
ソケット部分 | 真鍮製 | フェノール製 |
シェードを止めるクリップ | 合計6本のネジでミドル・ボトムを止める。真鍮製 | 真鍮製のクリップでミドル・ボトムを挟み込み固定 |
復刻版でも経年変化を楽しめる真鍮部品を多用しており良い演出だと思います。シェードの固定方法は、現行品の2/1(フロストガラス)もクリップ式になっているので、サイズによる仕様違いです。
製造会社、販売店について
最後は製造会社、販売店に関する紹介です。
製造会社、ルイス・ポールセン
製造会社はルイス・ポールセン。パリ万博の前年1924年にポール・ヘニングセンがルイス・ポールセンのためにPHランプをデザインしてから、一貫してルイス・ポールセンが製造しています。老舗のランプメーカーの中には姿を消してしまった会社もある中、ほぼ1世紀、PHの思想を守り作り続けています。
国内ショールームは東京六本木にありますが、オンラインで見学できる3Dショールームも公式ページに設置されています。その他、多くの家具販売店で展示されており、大塚家具やコンランショップだと、かなりの種類を見ることができます。ただし、屋外用やセプティマといった特殊なモデルは、本体のショールーム以外では見かけません。
販売店 ルカスカンジナビア(銀座)
ビンテージ品の購入ではお世話になっています。このPHランプも銀座にある北欧ビンテージ家具販売店「ルカスカンジナビア」です。ビンテージショップは何店舗も見てきましたが、商品のクオリティは一番です。日本国内で1番のビンテージショップという噂も耳にします。
家具だけではなく、オブジェや絵画など幅広く取り扱っています。最近は伺っていないですが、ホームページには新しい商品の情報が出ています。興味ある方は覗いてみてはいかがでしょうか?(公式HP)
最後に
北欧照明の代名詞「ルイス・ポールセン PHランプ」について紹介しました。しっかり考え抜かれた機能と北欧らしい高いデザイン性は、1つあるだけで空間のイメージをワンランクもツーランクも引き上げます。新築計画の主役に据えてみてはいかがでしょうか?
ペンダントランプは、ある程度の吊りコードの長さがないとバランスが悪くなります。特に大型照明器具は天井高さがないと設置しづらいので、こだわりの照明器具を希望する場合は、間取り検討の段階で天井高さと併せて打ち合わせる方が、満足できる結果につながると思います。早めがおすすめです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。次回は、復刻した北欧の照明メーカー「リーファ」とそのデザイナーを紹介します。